今回は「必要」,「十分」というものに注目します。 「Aを知るにはBが必要」とか「Aを知るにはBが分かれば十分だ!」など,いろいろな議論をするうえで重要な概念です。
目次
必要条件と十分条件
前回,命題の代表型である\(p \implies q\)を扱いました。 この命題が真であるとき,\(q\)を\(p\)であるための必要条件,\(p\)を\(q\)であるための十分条件といいます。
例えば,「1000円の商品が買える\(\implies\)500円の商品が買える」は真ですが,「1000円の商品が買える」ためには,少なくとも「500円の商品が買える」"必要"があります。 また,「500円の商品が買える」ためには,「1000円の商品が買える」のなら"十分"です。
上の例のように,数学では,1000円の商品を買うために「500円必要だ」ということがあります。 日常では,1000円の商品を買うときに「500円必要だ」とは言いませんよね。
日常語と数学用語はニュアンスが異なることがあります。 日常の「必要」は「過不足のない必要」であることが多いため,普通は「1000円必要だ」というでしょう。 しかし,数学の「必要」は「少なくともこれは必要だ」の意味なので,上記のような表現もするのです。
本文中のような具体例を通して理解しておけばOKです。 基本イメージは,必要は「これは外せない...」,十分は「これだけあればOK!」です。
ただ日常で使う必要・十分とは少し感覚が違うので分かりづらいですね。 「十分条件\(\implies\)必要条件」の順ですから,機械的に「矢先は必要」と覚えてしまっても良いです。
もう少し必要・十分の例を見てみましょう。 「Aは哺乳類である」という条件を考えます。 必要条件は「Aは哺乳類\(\implies X\)」が真となる条件\(X\),十分条件は「\(X \implies\)Aは哺乳類」が真となる条件\(X\)です。
必要条件の例は,「Aは脊椎動物である」「Aは魚類でない」「Aは肺呼吸する」などです。 必要条件は真であることが「必要」なので,ひとつでも偽なら命題も偽となります。 また,必要条件が真であっても,命題が真とは言い切れません。
十分条件の例は,「Aは犬である」「Aはヒトである」などです。 十分条件が真なら命題も真と分かります。それさえ分かれば「十分」なのです。 また,十分条件が偽であっても,命題が偽とは言い切れません。
必要十分条件と同値
\(p \implies q\)と\(q \implies p\)が共に真であるとき,\(p \iff q\)と書きます。 このとき,\(p\)は\(q\)(\(q\)は\(p\))であるための必要十分条件といいます。 また,このとき\(p\)と\(q\)は同値であるといいます。
条件\(p, q\)が同値であるとき,これらの条件は全く同じ内容です。 つまり,このとき\(p\)と\(q\)は同じことを別の言い方で表現しているだけなのです。
必要十分条件は,条件の言い換えです。 複雑な問題を考えるとき,それが簡潔な必要十分条件で言い換えられたら便利です。 いま考える条件を\(p\)としましょう。 その必要十分条件を「必要条件から十分なものを探す」方法で求める手順を紹介します。 (具体例が確認問題にあります。先に解いておくと,以下の説明が読みやすくなると思います。)
まずは適当な必要条件を作ります。 \(p\)が成り立つ具体的な状況を適当に選んだとき,その結果として得られる条件が\(p\)の必要条件です。 特に\(p\)が「任意の実数\(x\)に対して...」のような形であれば,\(x\)に何か適当な値を代入してみるだけで必要条件が得られます。
次に作った必要条件が十分条件にもなっていないか確認します。 先の手順で作った条件だけを元手に\(p\)を導けたら,それは十分条件でもありますから,必要十分条件が見つかったことになります。
また,何個かの必要条件を組み合わせて初めて十分になることもあります。 その場合,十分に達するまで何個か必要条件を集めて,そこから内容が重複する部分を除けば,綺麗な必要十分条件の出来上がりです。
確認問題
次の条件\(p\)は条件\(q\)であるための何条件か,下の(ア)~(エ)から選んで答えてください。
-
\(a, b\)を実数とします。
\(p\): \(a, b\)が整数
\(q\): \(a + b\)が整数 -
\(A, B\)(\(\neq \varnothing\))を集合とします。
\(p\): \(A \cap B \neq \varnothing\)
\(q\): \(A \subset B\) -
\(a, b\)を実数とします。
\(p\): \(a + b\)が偶数
\(q\): \(a - b\)が偶数 -
\(a, b\)を整数とします。
\(p\): \(a + b\)が偶数
\(q\): \(a - b\)が偶数
(ア) 必要十分条件
(イ) 必要条件であるが,十分条件ではない
(ウ) 十分条件であるが,必要条件ではない
(エ) 必要条件でも十分条件でもない
答え
\(p \implies q\)と\(q \implies p\)の真偽をそれぞれ確認しましょう。
-
[1] \(p \implies q\)
\(a, b\)がともに整数なので,その和である\(a + b\)も整数です。 したがって,これは真です。[2] \(q \implies p\)
\(a = 0.5, b = 0.5\)のとき,\(a + b\)は整数ですが,\(a, b\)は整数ではありません。 こんな反例があるので,これは偽です。[1],[2]より,\(p\)は\(q\)であるための十分条件ですが,必要条件ではありません。 したがって,答えは(ウ)です。
-
[1] \(p \implies q\)
\(A = \{1, 2\}, B = \{2, 3\}\)とすると,\(A \cap B = \{2\} \neq \varnothing\)ですが,\(A \subset B\)ではありません。 こんな反例があるので,これは偽です。[2] \(q \implies p\)
\(A, B \neq \varnothing\)なので\(A\)には何か要素があります。 \(x \in A\)とすると,\(A \subset B\)なので\(x \in B\)です。 よって,\(x \in A \cap B\)であり,\(A \cap B \neq \varnothing\)です。 したがって,これは真です。[1],[2]より,\(p\)は\(q\)であるための必要条件ですが,十分条件ではありません。 したがって,答えは(イ)です。
-
[1] \(p \implies q\)
\(a = 1.5, b = 0.5\)とすると,\(a + b = 2, a - b = 1\)なので\(a + b\)は偶数ですが,\(a - b\)は偶数ではありません。 こんな反例があるので,これは偽です。[2] \(q \implies p\)
\(a = 2.5, b = 0.5\)とすると,\(a + b = 3, a - b = 2\)なので\(a - b\)は偶数ですが,\(a + b\)は偶数ではありません。 こんな反例があるので,これは偽です。[1],[2]より,\(p\)は\(q\)であるための必要条件でも十分条件でもありません。 したがって,答えは(エ)です。
-
[1] \(p \implies q\)
\(a, b\)が整数であることを考慮すると,\(a + b\)が偶数であることから,\(a, b\)は偶数・偶数,または奇数・奇数の組み合わせです。 どちらの場合も\(a - b\)は偶数になります。 したがって,これは真です。[2] \(q \implies p\)
\(a, b\)が整数であることを考慮すると,\(a - b\)が偶数であることから,\(a, b\)は偶数・偶数,または奇数・奇数の組み合わせです。 どちらの場合も\(a + b\)は偶数になります。 したがって,これは真です。[1],[2]より,\(p\)は\(q\)であるための必要十分条件です。 したがって,答えは(ア)です。
すべての整数\(x, y\)に対して,\(a(x + y) + bxy\)が偶数になるための定数\(a, b\)の必要十分条件を答えてください。
答え
条件「すべての整数\(x, y\)に対して,\(a(x + y) + bxy\)が偶数になる」を\(p\)と呼び,\(a(x + y) + bxy\)を\(A\)と呼びましょう。 いくつか必要条件を作ってみて,そこから十分条件になるものを探す方針で考えます。
まず必要条件を作ります。 \(p\)はすべての整数\(x, y\)に対して成り立つわけですから,当然\(x = 1, y = 0\)でも成り立っている「必要」があります。 つまり,これを\(A\)に代入した\(a\)も偶数である「必要」があります。 これで,「\(a\)が偶数」という必要条件が作れました。
しかし,これはまだ十分ではありません。 例えば,\(x = 1, y = 1, b = 1\)のときは,\(a\)が偶数であっても,\(A\)は\(2a + 1\)となり,奇数になってしまいます。
先ほど見つけた条件だけでは足りないようなので,更に必要条件を作りましょう。 今度は\(x = 1, y = -1\)を\(A\)に代入してみると,\(-b\)となります。 当然これも偶数である「必要」がありますから,「\(b\)が偶数」という必要条件が作れました。
先ほど作った条件と組み合わせると「\(a, b\)が偶数」となりますね。 これで十分条件になれたか確認してみます。 このとき,\(x, y\)がどんな整数であっても,\(a(x + y)\)も\(bxy\)も偶数ですから,その和である\(A\)も偶数です。 これで条件\(p\)が導けたので,今回作った条件で十分であることが分かりましたね。
以上から,題意の必要十分条件は「\(a, b\)が偶数」です。
ちなみに,必要条件を作るときの\(x, y\)の値は,\(A\)が\(a\)だけ,または\(b\)だけの式になってくれるように選んでいます。